KPI・計測設計 — その数字は、そもそも正しく取れているか

計測の配線を疑う

このコマのゴール

支援先のKPIを設計し、いま何が測れていて何が測れていないかを棚卸し表にする。

このコマで何ができるようになるか

なぜこれが必要なのか

中小企業支援でよく起きる問題があります。施策を実行したものの、3か月後、6か月後に経営者から「あれ、どうなりましたか」と聞かれたとき、効果があったのかなかったのか、誰も答えられないという状態です。原因は単純で、始める前に「何を測るか」を決めていないからです。

前のコマ(D3-1)で、施策の優先順位と成功基準(数字)は決めました。しかし、その数字を「どうやって測るか」まではまだ詰めていません。ここを詰めなければ、成功基準は絵に描いた餅で終わります。特に中小企業では、そもそも計測の仕組み自体が存在しないことが珍しくありません。演習で扱う湘南精密工業(演習用の架空企業)も、Webサイトに問い合わせフォームすらない状態で、問い合わせを記録する仕組みも当然ありません。

診断士の仕事は「施策を提案する」だけでなく、「効果を検証できる状態を作る」ところまでを含みます。ここを飛ばすと、後半のコマで扱う月次報告の場面で、「なぜか分からないが数字が動いていない」としか説明できなくなります。逆に、ここで指標と測定の仕組みを設計しておけば、その後の伴走支援全体の説得力が変わります。生成AI(指示に応じて文章や表を作るAIエージェント。この講座では、配布する作業環境フォルダを通じて操作します)は指標の分解や棚卸し表の作成を速く進めてくれますが、その指標が本当に経営に効いているかどうかの妥当性は、診断士自身の経営知識で判断する部分です。

押さえる考え方

計測の配線を疑う — どのツールが、どのページに、どのIDで入っているか

指標を設計する前に、必ず確認すべきことがあります。今その数字を出しているツールが、本当に正しいページに、正しいIDで設置されているかどうかです。中小企業のWebサイトでは、計測タグが古いページのコピーにしか入っていない、テスト用のIDのまま本番運用されている、複数のツールが二重に設置されていて数字が食い違う、といった「配線の誤り」が珍しくありません。数字が動かないと相談を受けたとき、まず疑うべきは施策そのものより先に、この配線です。配線を確認しないまま指標設計に進むと、正しく計測できていない数字を土台にした戦略になり、あとから根本的な作り直しが必要になります。

売上から逆算し、動かせる指標まで分解する

売上という大きな目標は、経営者も現場も直接操作することができません。日々動かせるのは、もっと手前にある指標(問い合わせ件数、成約率、平均単価など)です。これをKPI(重要業績評価指標=目標に向けて今どこまで進んでいるかを確認するための数字)と呼びます。売上目標だけを置いても、「来月から具体的に何をすればよいか」にはつながりません。

湘南精密工業には「新規引き合いを月2件以上にする」という支援の目標があります(初回ヒアリング時点の仮置きで、経営者との正式合意前です)。これをもう一段階分解すると、「Webサイトの問い合わせフォームからの流入」「展示会での接点」など、動かせる手段ごとの指標に分かれていきます。この分解の粒度が、現場が実際に触れるレベルまで届いているかどうかが重要です。

「測れる指標」と「測れるようにする必要がある指標」を分ける

理想のKPIツリーを設計しても、そもそもデータが取れていない指標は多くあります。ここで理想形だけを追いかけると、絵に描いた餅になります。現状で測れているもの・測れていないものを棚卸しし、測れていないものは「これから測れるようにするための作業」として別枠で扱います。例えば、問い合わせフォームがなければ、まずフォームを設置しないと問い合わせ件数そのものが測れません。

現在の値が分からない指標は「未取得」と正直に書きます。推測で埋めてはいけません。これは診断士としての信頼に直結する部分です。

「分かること/分からないこと」を対照表で示す — AI検索経由の露出をどこまで測れるか

指標には、既存の計測の仕組みで正確に取れるものと、現時点ではまだ正確には取りにくいものが混在します。特にAI検索は、生成AIの回答の中でどれだけ自社が挙げられ、そこから実際にどれだけの見込み客が接点を持ったかを、既存のアクセス解析だけで追い切ることが難しい領域です。D2-1で作ったAI検索プローブは「出てくるか出てこないか」を判定できますが、そこから実際の問い合わせにつながった件数までを自動で追跡する仕組みは、現時点では一般的ではありません。ここで大切なのは、分かることと分からないことを一つの対照表にまとめ、支援先に両方とも正直に示すことです。分からない部分を隠して「AI検索対策をしました」とだけ伝えると、後になって「結局何が変わったのか」を説明できなくなります。

支援先が自分で測れる設計にする

診断士が毎月現地に足を運んで数字を数える、という設計は長続きしません。測定方法と頻度を明確にし、支援先自身が測れる形にしておく必要があります。湘南精密工業であれば、「多少パソコンが得意」な事務担当者が担える範囲を意識して設計します。ここが、後半のコマで扱う月次レポートを「仕組み」として回せるかどうかの分かれ目になります。

手を動かす手順

  1. D3-1で作った優先順位つき施策表をAIに読み込ませ、上位施策についてプロンプト集「KPIを設計し、計測できるか棚卸しする」(strategy-03)を使い、指標の分解を依頼します。湘南精密工業の「新規引き合い月2件以上」(仮置き・要確認)を起点にする例で試してください。
  2. 出てきた指標ツリーを確認します。「現在の値」が入っている指標について、出典があるかを確認し、無ければ「未取得」に直させます。
  3. 測定方法の欄が「どのツールの、どの画面の、どの数字か」まで具体的に書かれているかを確認します。曖昧であれば書き直させます。
  4. 測定方法が具体的に書けた指標について、そのツールが実際にどのページに、どのIDで設置されているかを確認します(演習ではサイト実測データ.md の記載で代用します)。配線が確認できない指標は、その旨を記録します。
  5. 「いま測れる指標」と「測れるようにする必要がある指標」に仕分けし、後者について、測れるようにするための作業(フォーム設置など)を別途洗い出させます。
  6. AI検索経由の露出について、「分かること」(AI検索プローブでの出現状況)と「分からないこと」(そこからの実際の問い合わせ数など)を対照表にまとめます。
  7. 測定の担当が支援先自身になっているかを確認します。診断士が毎回測りに行く設計になっていないかをチェックします。
  8. KPI設計書・計測棚卸し表としてA4 1〜2枚にまとめ、03_クライアント/サンプル_湘南精密工業/03_提案/ に保存します。

つまずきやすいところ

このコマが終わったときの状態

時間配分(計120分)

このコマで残るもの

このコマで身につくAIの使い方

このコマで使うプロンプト

当日のワークシート

演習中に手元に置いて、埋めながら進めるシートです。印刷してお使いいただけます。

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このコマの事前学習

既存教材「WEBMARKS AIエージェントCAMP」から、このコマの予習に使うレッスンを選んでいます。

D3-2 に割り当てたレッスンを見る →

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