診断から戦略へ — 限られた予算と人手をどこに置くか
打ち手に「値札」をつける
Day2の診断結果から、効果・確度・工数で並べた優先順位つきの施策表を作る。
このコマで何ができるようになるか
- 診断レポートで見つかった課題の山を、効果・確度・工数の3つの軸で採点し、優先順位つきの施策表に変換できるようになります。
- 成功基準を数字で書けない施策を、検証できない助言として採用しない、という判断ができるようになります。
- 「全部やりましょう」ではなく、上位から着手し、それ以外は「今回は見送る」とはっきり言えるようになります。
- 予算に余裕がない支援先に対して、3段階に分けた投資計画を提示し、経営者が段階ごとに決裁できる形で出せるようになります。
- AIが出した並び順をそのまま渡すのではなく、支援先の体力に合っているかを自分の目で検算してから提示できるようになります。
なぜこれが必要なのか
診断レポートを1本作り上げると、課題は5つでも10でも出てきます。演習で扱う湘南精密工業(演習用の架空企業)の例で言えば、「取引先の集中(上位2社で68%)」「EV化による受注減の見通し」「新規開拓の手段がない」「Webサイトが機能していない」「事業承継が未着手」と、性質の違う課題が同時に並びます。ここで経営者から必ず出る質問が「で、何から手をつければいいですか」です。
このとき「どれも大事です」と答えると、結局何も動きません。中小企業は人も時間も予算も限られています。従業員28名の会社が、社長がほぼ1人で営業を担いながら、5つの課題に同時に着手できるはずがありません。優先順位をつけずに提案すると、経営者は決裁の材料を持てず、現場は何から動けばよいか分からず、診断士自身も後になって「言われた通り全部やったのに効果が見えない」という評価を受けるリスクを負います。全部を同時に動かすと、結局どの施策が効いたのかも分からなくなるからです。
課題を洗い出し、並べ替える「作業」はAIに任せられますが、支援先の体力に合わせて何を優先するかという「判断」は、診断士が最後まで握る仕事です。このコマでは、その判断を経営者に伝わる形にする型を身につけます。
押さえる考え方
効果・確度・工数の3軸で採点する
施策を並べる基準は、効果(売上・利益にどれだけ効くか/大・中・小)、確度(効果が出る確からしさ/高・中・低)、工数(かかる時間と費用/大・中・小)の3つです。
確度は、根拠の強さで決まります。実測データや診断士としての経験に基づく施策は確度が高く、「なんとなく良さそうだから」で選んだ施策は確度が低いと判断します。工数は、支援先の実行体制によって重みが変わります。湘南精密工業のようにWeb担当者がおらず、事務担当者が「多少パソコンが得意」という程度の体制では、同じ施策でも工数の評価は重くなります。
成功基準を書けない施策は採用しない — 検証できない助言を捨てる
施策には、必ず成功基準を数字で添えます。「良くなったらOK」ではなく「何が、いくつになったら成功か」を決めておくことが、次のコマ(KPI設計)につながる伏線になります。ここで重要なのは、成功基準を数字で書けない施策は、どれだけ効果がありそうに見えても採用しないという判断基準です。「なんとなく良さそう」という助言は、後から効果があったのかなかったのかを誰も検証できません。検証できない助言は、支援先にとっても診断士自身にとっても、次に活かせる学びを残しません。数字で書けない施策が出てきたら、無理に上位へ残すのではなく、「成功基準を設計してから改めて検討する」という保留の扱いにします。
「全部やる」を手放す
診断士は課題を見つけるのが仕事なので、放っておくと課題を全部拾ってしまいがちです。しかし、優先順位表の役目は「やらないことを決める」ことにあります。上位の数個だけに絞り、それ以外は「今回は見送る」と明記する勇気を持つことが、この工程の本質です。
社長がほぼ1人で経営・現場・営業を兼ねている湘南精密工業のような会社では、実行できる人的リソースの上限がはっきり低いことが分かっています。優先順位づけは、絞り込みの技術であると同時に、経営者への配慮でもあります。
予算がない支援先への段階提示
中小企業の多くは、一度に大きな投資判断ができません。3期連続で売上が減っている湘南精密工業のような会社では、財務的な余力も限られます。
ここで効くのが、3か月・6か月・12か月のように区切り、各段階の終わりに「ここまで確認できたら次へ進む」という条件を明記する提示方法です。この「次へ進む条件」があることで、経営者は「まず小さく試して、効果が見えたら次に進める」という決裁をしやすくなります。逆に、条件のない提案は「全部一度に決めないといけない」という重い決裁になり、通りにくくなります。
第1段階は特に、費用を最小にして「効くかどうかを確かめる」ことに集中させる設計にします。
手を動かす手順
- D2で作った湘南精密工業の診断レポートをAIに読み込ませ、プロンプト集「施策に優先順位をつける」(
strategy-01)を使って施策を洗い出させます。支援先の体力(従業員28名・年商4億8,200万円)を制約として必ず書き添えてください。 - 出てきた施策表を確認します。効果・確度・工数の判定根拠が1行ずつ書かれているか、成功基準が数字になっているかをチェックします。
- 成功基準を数字で書けない施策がないかを確認します。あれば、その施策を優先順位の上位から一旦外すか、「成功基準を設計してから検討」という保留に回します。
- 「全部やる」案になっていないか確認します。上位に入らなかった施策が「見送り」と明記されているかを見ます。
- プロンプト集「予算がない支援先向けに段階を分ける」(
strategy-02)を使い、初期に出せる費用・月々に出せる費用・社内で動かせる人数(湘南精密工業なら「月10万円くらいなら」という初回ヒアリングでの発言と、Web担当者がいない社内体制)を入力して、3段階に分け直します。 - 各段階の「次へ進む条件」が、測れる数字で書かれているかを確認します。
- 完成した施策表をA4 1枚に収まる形に整え、
03_クライアント/サンプル_湘南精密工業/03_提案/に保存します。
つまずきやすいところ
- 効果・確度・工数がすべて「中」で並んでしまう:軸の定義(何が「大」で何が「小」か)を先にAIに確認させてから採点させます。D2-2で使った「採点軸を先に確認する」考え方と同じです。
- 効果が大きそうというだけで、成功基準を決めないまま優先順位の上位に残してしまう:「良さそう」は採用条件にならないと思い出します。数字の基準が書けるようになるまで、上位からは一旦外します。
- 成功基準が「向上する」のような曖昧な言葉になる:数字で書き直すよう指示します。数字が出せない場合は「測定方法が未確立」の課題として扱い、次のコマ(KPI設計)で埋めます。
- AIが支援先の体力を無視した一般的な優先順位を出してくる:従業員数・年商・体制をプロンプトに必ず書き込みます。それでも外れる場合は、診断士が手で並べ替えます。
- 「次へ進む条件」が「効果が出たら」のような主観的な表現になる:問い合わせ件数など、測れる数字に置き換えさせます。
- 予算感が正式合意前のヒアリング発言しかない:断定的に「予算は月10万円」と書かず、「初回ヒアリングでの発言(正式合意ではない)」と出典を明記したまま提案に進みます。
このコマが終わったときの状態
- 施策が効果・確度・工数の3軸で並び、判定根拠が1行ずつ書かれている
- 成功基準を数字で書けない施策を、上位の優先順位に採用していない
- 上位に入らなかった施策が「見送り」として明記されている
- 成功基準がすべて数字で書かれている
- 3段階(3か月・6か月・12か月)に分かれ、各段階に測れる「次へ進む条件」がある
- 予算・人員などの制約情報の出典(ヒアリングでの発言か、正式合意かなど)が明記されている
時間配分(計120分)
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20分講義中小企業のリソース制約下での優先順位づけ
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25分講義打ち手に「値札」をつける(効果 × 確度 × 工数)
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15分講義成功基準を書けない施策は採用しない — 検証できない助言を捨てる
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50分演習【ワーク】Day 2の診断結果から、優先順位つきの施策表を作る
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10分共有共有・質疑
このコマで残るもの
- マーケティング戦略の設計書(優先順位つき施策表)
このコマで身につくAIの使い方
このコマで使うプロンプト
当日のワークシート
演習中に手元に置いて、埋めながら進めるシートです。印刷してお使いいただけます。
このコマの事前学習
既存教材「WEBMARKS AIエージェントCAMP」から、このコマの予習に使うレッスンを選んでいます。